作問をしよう(点から放物線に引いた接線編)

 私の塾講師生活は,リアルタイムに作問を行う場面の連続です。苦手をピンポイントに突く問題,新たな概念の説明用に最適化された問題,そこらの問題集には載っていないような入試問題の類題,そんな問題を素早く正確に生産する技術は塾講師の仕事の中で自然と身についていくものです*1
 作問しようとする問題の種類によっては,適切な数値設定を要求されるものがあります。問題の数値設定を誤ると,対象の学年の知識では解けない問題が錬成されてしまったり,解けてもヒドい答えになってしまうことがあります。
 例えば,以下のような平面幾何の問題。

問.  \text{AB} = 5,\ \text{AC} = 3,\ \angle\text{BAC} = 120^\circ \triangle\text{ABC} について, \text{BC} を求めよ。
この問題の答えは  \text{BC} = 7 です。いかにも「余弦定理の入門」って感じの問題ですね*2。私が余弦定理のチュートリアルでよく出す問題のうちの一つです*3。計算しやすく楽しい問題です。しかし,例えば
問.  \text{AB} = 5,\ \text{AC} = 3,\ \angle\text{BAC} = 150^\circ \triangle\text{ABC} について, \text{BC} を求めよ。
というように少し値を変えてしまうと,答えは  \text{BC} = \sqrt{34 + 15 \sqrt{3}} となってしまいます。なんだかビミョーな値ですね。初学者からすれば,本当にこの答えで合っているのか不安になったり,二重根号を外すことを試みて迷宮入りしてしまうでしょう。私は前者の問題のほうが好きです。
 前者のように答えがきれいになる問題や計算しやすい問題を作問するには,コツや知識,経験がある程度求められます。特に,根号が出現する可能性のある問題には注意が必要です。
 そんな作問におけるコツや知識として私の愛用しているものがいくつかあります。今回本記事にて紹介するのは,その中の一つ,放物線と接線に関するある種の問題についてです。

 今回考える問題は,高校数学 Ⅱ にて学習する以下のような問題です。*4

問. \,\text{A}(p,\, q)\;から放物線  y = a x^2 + b x + c に引いた接線の方程式を求めよ。

  p,\, q,\, a,\, b,\, c にはなんらかの実数定数が入ります。この問題は,通常の解答方法において二次方程式を解くことを必要とする問題です。そのため, p,\, q,\, a,\, b,\, c に適当な実数を入れてしまうと,接線が存在しなかったり,存在したとしても根号の入り混じるエゲツない答えになってしまうことがあります。作問に注意すべき問題の典型例でしょう。

目次

例題

 まず,以下の例題について考えてみましょう。

例題. \,\text{A}(p,\, q)\;から放物線  y = x^2 - 3 x + 5 に引いた接線の方程式を求めよ。

  a,\, b,\, c に適当な実数を当てはめてみました。

  p q にも何か適当な実数を入れて,以下の条件を満たすように問題を成立させたいとしましょう。

条件 1: 接線が 2 本存在する。
条件 2:  p は整数。または,少し緩和して分母を 2 とする有理数
条件 3:  q は整数。
条件 4: 接線の方程式が  y = m x + n m, n は整数)と表せる。


 条件 1 は,接線が 0 本の場合は問題としてつまらないこと(ひっかけ問題としてあえて接線を 0 本にするのもアリですが)から課しています。条件 2, 3, 4 は,計算を行いやすくし,解答に根号が出てこないようにしたいという点から設定しています。


 右辺の式を  f(x) = x^2 - 3 x + 5 とおくとき,条件 1 を満たすためには  q が不等式  q < f(p) を満足する必要があります。これはグラフを書けば明らかでしょう。もし条件 2, 3, 4 を満たさなくてもよいならば,この不等式を満たす実数  p,\, q を自由に選べばよいです。

 条件 1, 2, 3 を満たすことは,条件 4 を満たすための十分条件にはなり得ません。例えば, p = 1 q = -2 とした場合,接線は確かに 2 本存在しますが,その接線の方程式はそれぞれ

 y = (-1 + 2 \sqrt{5}) x - 1 - 2 \sqrt{5},
 y = (-1 - 2 \sqrt{5}) x - 1 + 2 \sqrt{5}

となり,条件 4 を満たさなくなります。このような答えを避けることが本記事の趣旨です。


 では,条件 1, 2, 3, 4 をすべて満たす整数  p,\ q の値にはどんなものがあるのでしょう。


 先に答えを述べてしまいましょう。例えば  p = 1 の場合, q = 2,\ {-1},\ {-6},\ {-13},\ {-22},\ \dotsc ならば上記条件をすべて満たします。これらは,

 q = 3 - t^2 = f(1) - t^2 t は正の整数)

という形で書ける数です。他の場合,例えば  p = -2 のときは, q = 14,\ 11,\ 6,\ {-1},\ {-10},\ \dotsc ならば上記条件をすべて満たします。これらは,

 q = 15 - t^2 = f(-2) - t^2 t は正の整数)

という形で書ける数です。あら不思議!


 ……察しの良い方であれば,この時点でポプ子の如くこう呟くことでしょう。
「あー そーゆーことね 完全に理解した」と。

 さて,一旦ここで例題から離れ,一般化した状態で問題を考察してみることにします。


一般化

問. \,\text{A}(p,\, q)\;から放物線  y = a x^2 + b x + c に引いた接線の方程式を求めよ。

 まず, a, b, c に適当な整数を入れ,放物線を確定させましょう。この状態で,上記条件 1 ~ 4 を満たすように  p,\, q の値を決めることを考えます。

 ここで,以下の事実を用いましょう。

事実.放物線  y = f(x) = a x^2 + b x + c 上の異なる 2 点  \text{P}\left( x_1,\ f(x_1) \right) \text{Q}\left(x_2,\ f(x_2) \right) における 2 本の接線の交点  \text{A} の座標は
 \displaystyle \text{A}\Bigl( \frac{x_1 + x_2}{2},\ a x_1 x_2 + b \frac{x_1 + x_2}{2} + c \Bigr)
である。特に, x_1 = p - t x_2 = p + t のとき, \text{A}(p,\ a x_1 x_2 + b p + c) である。

 証明は簡単で,2 本の接線の方程式をそれぞれ求めて連立すれば得られます。

 この事実は,2 接点の  x 座標と  a,\, b,\, c の値から,2 本の接線の交点の座標が簡単に計算できることを示しています。2 本の接線の交点の  x 座標は,2 接点の  x 座標の平均となっていることがわかります。
 これを逆手に取ると,点  \text{A}(p,\ q) から放物線  y = f(x) = a x^2 + b x + c へ接線を引くとき,その 2 接点の  x 座標がある実数  x_1,\ x_2 となるようにしたいならば, p,\, q の値をそれぞれ

 \displaystyle p = \frac{x_1 + x_2}{2},\ \quad q = a x_1 x_2 + b p + c

で定めればよいことになります。

 接点の  x 座標  x_1,\ x_2整数から適当に選び,上の式で  p q の値を定めれば,当然ながら条件 1 は満たされます。また,このとき  p は整数か,または  (\text{奇数}) / 2 の形になります。ゆえに,条件 2 もクリアです。もし  p が整数なら, q = a x_1 x_2 + b p + c も整数になりますから,条件 3 が満たされます。もし  p (\text{奇数}) / 2 の形なら, b を偶数にとれば  q が整数になり,条件 3 を満たします。さらに,接線の方程式の標準形  y = m x + n における  m n の値は,接点の  x 座標が整数であれば必然的にどちらも整数になります。

 したがって,接点の  x 座標  x_1,\ x_2 をそれぞれ整数に決めるだけで条件 1 〜 4 はすべて満たされることがわかります。

 まとめると以下のようになります。

 接点の  x 座標  x_1,\, x_2 を適当に整数値で決める。このとき, x_1 x_2 の平均値が整数になるようにしておく。 a,\, b,\, c の値を適当な整数値で決め,放物線  y = f(x) = a x^2 + b x + c を決定する。整数  p,\, q の値をそれぞれ
 \displaystyle p = \frac{x_1 + x_2}{2}, \quad q = a x_1 x_2 + b p + c
で定める。
 このとき,点 \text{ A}(p,\, q) から放物線  y = a x^2 + b x + c にひける接線は 2 本存在し,2 つの接点の座標は  \left( x_1,\ f(x_1) \right),\ \left(x_2,\ f(x_2) \right) となる。また,接線の方程式は  y = m x + n m,\ n は整数)の形で表される。
 なお, x_1 x_2 の平均値が  (\text{奇数}) / 2 となるように  x_1,\, x_2 の値を決めることも可能である。その場合は, a,\, b,\, c の値を適当な整数値で決める際に, b を偶数でとればよい。そうすれば, p は整数ではないが, q は整数になる。この場合も,上の「このとき」以降のことがらが同様に成立する。

  x_1,\, x_2 ではなく  p の値を先に決めてもよいですね。その場合,接点の  x 座標  x_1,\, x_2 \dfrac{x_1 + x_2}{2} = p を満たすように適当にとればよいです。つまり,適当な数  t を用いて  x_1 = p - t x_2 = p + t とします。

再び例題へ

 先の例題に話を戻しましょう。「点  \text{A}(p,\, q) から放物線  y = x^2 - 3 x + 5 に引いた接線の方程式を求めよ。」という問題で,点  \text{A} の座標を適切に設定したいのでした。

 まず,接点の  x 座標  x_1,\ x_2 を先に決めましょう。 x_1 x_2 は整数として,平均値も整数となるようにしましょう。

 例えば  x_1 = -1,\ x_2 = 3 としてみましょうか。このとき, (a, b, c) = (1, -3, 5) より,

 \displaystyle p = \frac{x_1 + x_2}{2} = 1, \quad q = a x_1 x_2 + b p + c = -1

となります。これで問題の完成です!


問A. \,\text{A}(1,\, -1)\;から放物線  y = x^2 - 3 x + 5 に引いた接線の方程式を求めよ。

 作問者からみれば,この問題の答えは簡単に求められます。なぜならば,接点の  x 座標が  x_1 = -1 x_2 = 3 であることがわかっているから。もっと言えば,接点の  x 座標を指定して作問したからです。

 接線の方程式を実際に求めてみましょう。

  f(x) = x^2 - 3 x + 5 とおくと, f'(x) = 2 x - 3 より  f'(-1) = -5 f'(3) = 3 となります。これが接線の傾きですね。点  \text{A}(1,\ {-1}) を通ることにより,求める接線の方程式は

 y - (-1) = -5 (x - 1) と  y - (-1) = 3 (x - 1)

すなわち

 y = -5 x + 4 と  y = 3 x - 4

となります。これが問Aの答えです。

 微分を使わずに, f(x)多項式  (x + 1)^2 (x - 3)^2 で割った余りをそれぞれ求めてもよいですね*5。それが接線の方程式の右辺になります。知る人ぞ知る,高次の組立除法を用いれば一瞬で答えが求まるでしょう。

 作問側が答えを直ちに得ることができる。これはとても素晴らしいことです。作問戦争におけるドヤ顔百景の一つに数えられるほどです。

q の計算式,覚えられない!

 先ほどのまとめで紹介した次の式。

 q = a x_1 x_2 + b p + c

こう思われる方もいるでしょう。「覚えられない,覚えたくない」!

 大丈夫です。安心してください。救いはあります。

 再び一般の場合を考えます。 f(x) = a x^2 + b x + c p = \dfrac{x_1 + x_2}{2}について, q - f(p) を計算してみましょう。

 {
\begin{align*}
    q - f(p) &= (a x_1 x_2 + b p + c) - (a p^2 + b p + c) \\
        &= a \left( x_1 x_2 - p^2 \right) \\
        &= a \left( x_1 x_2 - \frac{{x_1}^2 + 2 x_1 x_2 + {x_2}^2}{4} \right) \\
        &= a \cdot \frac{{-x_1}^2 + 2 x_1 x_2 - {x_2}^2}{4} \\
        &= -a \left( \frac{x_2 - x_1}{2} \right)^2
\end{align*}
}

これより,

 \displaystyle q = f(p) - a \left( \frac{x_2 - x_1}{2} \right)^2

が得られます。 p x_1 x_2 の平均だったので, x_1 = p - t x_2 = p + t となるような  t を考えれば, x_2 - x_1 = 2 t です。したがって,

 q = f(p) - a t^2

となります。


これだワ! これが本質なのですワ!


 つまり,放物線  y = f(x) 上の点  \text{P}(p,\ f(p)) から  y 軸方向に  - a t^2 だけ平行移動した点を  \text{A} とすればよいのです。

 これは,点  \text{P} を放物線の頂点が向く方向へ  \lvert a \rvert t^2 だけ平行移動させることを意味します。下に凸なら下へ  \lvert a \rvert t^2 だけ平行移動させる,すなわち  y 座標を  \lvert a \rvert t^2 だけ引く。上に凸なら上へ  \lvert a \rvert t^2 だけ平行移動させる,すなわち  y 座標を  \lvert a \rvert t^2 だけ足す,ということです。

 よって,先ほどの問Aを作問する際の  q の計算は,次のように行うことができます。

 x_1 = -1 x_2 = 3 と定めると, \displaystyle t = \frac{x_2 - x_1}{2} = 2

このとき  p = 1 であり, f(x) = x^2 - 3 x + 5 より  f(p) = 3
 y = f(x) は下に凸なので, f(p) から  t^2 を引いて  q = 3 - 4 = -1

よって  \text{A}(1,\ {-1}) とすればよい。

 え?  \text{A}(p,\ a x_1 x_2 + b p + c) なんて書かずに初めから  \text{A}(p,\ f(p)-t^2) と書いておけって? ふえぇ……。


 まとめると,「点  \text{A}(p,\, q) から放物線  y = f(x) = a x^2 + b x + c に引いた接線の方程式を求めよ。」という問題で,先に述べた条件 1 〜 4 をすべて満たすように  p,\ q,\ a,\ b,\ c の値を定めたい場合, p,\ a,\ b,\ c を適当な整数( a \neq 0), t を正の整数として, q

 {
\begin{align*}
    q &= f(p) - a t^2
\end{align*}
}

と定めればよいのです。このとき,放物線との接点の  x 座標は  p + t,\ p - t となります。


 ……さて,ここまで事実やらなんやらを用いていろいろしてきた結果,得られた最適解は「 f(p) から  at^2 を引けばうまくいく」となりました。これ,実は,接線と放物線の  y 座標の差を考えれば直ちに得られる結論なのです。例えば  a = 1 のとき,接点から  x 座標が  1 ずつ離れるごとに接線と放物線の  y 座標の差の絶対値は  1,\, 4,\, 9,\, 16,\, 25,\, \dotsc と平方数で増えていきますから,結局はそれを利用しているに過ぎないのです。
  at^2 を引く意味は次の図がすべてを説明してくれます。"感じて" ください(投げやり)。*6

f:id:hge:20210208004405p:plain:w320
図 1 放物線と 2 本の接線で囲まれた領域を  x 軸方向に 8 等分した図

余談

 ここまでに書いてきた内容,裏を返せばこの種の問題を素早く解くことに利用できてしまいます。

 例えば,次の問題。

問B. \,\text{A}(1,\, -3)\;から放物線  y = 2 x^2 - 5 x + 8 に引いた接線の方程式を求めよ。

この問を次のように解くことができます。

 f(x) = 2 x^2 - 5 x + 8 とおくと, f(1) = 2 - 5 + 8 = 5
よって,点  \text{A} y 座標  -3 は, f(1) より  8 小さい。

2 接点の  x 座標を小さい方から順に  x_1,\ x_2 とすると,これらは正の実数  t を用いてそれぞれ  x_1 = 1 - t,\ x_2 = 1 + t と表せる。

このとき, t の値は  \displaystyle t = \sqrt{\frac{8}{2}} = 2 と求められる。

したがって,接点の  x 座標は  x_1 = -1,\ x_2 = 3 である。


 f'(x) = 4 x - 5 より, f'(-1) = -9 f'(3) = 7。これが接線の傾きとなる。

接線が点  \text{A}(1,\ {-3}) を通ることから,求める接線の方程式は

 y - (-3) = -9 (x - 1) と  y - (-3) = 7 (x - 1)

すなわち

 y = -9 x + 6 と  y = 7 x - 10

 t の値を求める部分では, q = f(p) - a t^2 t について解いた式

 {
    \displaystyle
    t = \sqrt{\frac{f(p) - q}{a}}
}
を用いています。接線が 2 本存在することと  \displaystyle \frac{f(p) - q}{a} > 0 であることは同値です。


まとめ

やっぱり座標は整数が最高ですよね。座標はやっぱりこうでねぇと!

coordinate だけに。


(おわり)


*1:突然現れるひろゆき「それってあなたの感想ですよね?」 ぼく「ヒッ」 ぐうの音「  」

*2:いまアナタ思ったでしょ! それ,三平方の定理でいけるじゃんって! メッ!

*3:7-5-3 の三角形,7-5-8 の三角形,7-8-3 の三角形は定番。それぞれ一つの内角が 120°,60°,60° になります。アイゼンシュタイン三角形は最高。

*4:余談ですが,私は「放物線に引いた接線」という言い方より「放物線へ引いた接線」と言いたい派閥の人間なのですが,私の持っているテキストの多くは「に引いた」と表記しているため,この記事ではそれに合わせています。なぜ格助詞「に」を用いるのがスタンダードなのでしょう。私の長年の疑問です。言い回しに困ったら「点Aを通り,放物線 y = ~~ に接する直線の方程式を求めよ。」と書いてしまえばよろし。

*5:f(x) を (x - α)^2 で割った余りを r(x) とすると,方程式 f(x) = r(x) は重解 x = α を持ちます。したがって,直線 y = r(x) は放物線 y = f(x) の x = α における接線となります。

*6:この図,めちゃめちゃ綺麗じゃないですか? 最近SVG画像の扱い方を覚えたのです。ドヤっ!