三乗根の二重根号を外す

三乗根の二重根号を外すことになったことはありませんか?

実は大きい数の二重根号を外すのはとても面倒なのです。なるべく簡単に外したいものです。*1


この記事では,一番よく目にする(と思われる) \sqrt[3]{a+b\sqrt{c}} の形の二重根号を外すことを考えてみます。

例題 1

例題:  \ \displaystyle \alpha = \sqrt[3]{386+225\sqrt{7}} の二重根号を外せ。


計算手順の一つに,こんなものがあります。*2

  \displaystyle \beta = \sqrt[3]{386-225\sqrt{7}} とおくと

 \alpha^3+\beta^3 = (\alpha+\beta)^3-3\alpha\beta(\alpha+\beta) = 772

  \displaystyle \alpha\beta = \sqrt[3]{-205379} = -59 より,

 (\alpha+\beta)^3+177(\alpha+\beta) - 772 = 0 \\ (\alpha+\beta-4)\left\{(\alpha+\beta)^2+4(\alpha+\beta)+193\right\} = 0

 \alpha+\beta は実数なので, \alpha+\beta = 4

よって, \alpha,\ \beta t についての方程式  t^2-4t-59=0 の解となる。

したがって, \alpha>\beta より  \ \alpha=2+3\sqrt{7}


さて,一箇所クソみたいなところがありました。

 \sqrt[3]{-205379}=-59 を手計算するのはちょっと無理があります。私のようなマゾ豚でも電卓を使いたくなります。

整数センスのある人なら  60^3 = 216000 9^3 \equiv 9\ (\text{mod } 10) から  59 を推測できてハッピーなのかも……?

ちなみに, \sqrt{ }ボタンのある電卓であれば
 (適当な数)×(数字)=\sqrt{ }\sqrt{ }×(数字)=\sqrt{ }\sqrt{ }×(数字)=\sqrt{ }\sqrt{ }・・・
という順でキーを押すと (数字)の三乗根が計算できます。



そこで,0でない整数  p,\,q を用いて  \sqrt[3]{386+225\sqrt{7}}=p+q\sqrt{7} とおいてみましょう。(もちろん整数の範囲で三乗根を外せるとは限りません。このような整数  p,\,q が存在する保証はありませんが,今回は整数であることを期待して考えます。)



両辺を3乗すると,

{
\begin{align}
    386+225\sqrt{7} &= (p+q\sqrt{7})^3 \\
     &= p^3+3p^2q\sqrt{7}+21pq^2+7q^3\sqrt{7} \\
     &= (p^2+21q^2)p+(3p^2+7q^2)q\sqrt{7}
\end{align}
}

が得られます。  (p^2+21q^2)p,\ (3p^2+7q^2)q は整数なので,両辺を比較して

{
\begin{cases}
    386=(p^2+21q^2)p \qquad \cdots(1) \\
    225=(3p^2+7q^2)q \qquad \cdots(2)
\end{cases}
}

を満たす整数  p,\,q を見つければよいことがわかります。


ここからは  p,\,q の候補を絞っていきます。

まず, p^2+21q^2>0, \hspace{10px} 3p^2+7q^2>0 から  p>0,\ \ q>0 が分かります。

よって式  (2) から,  q 225 の正の約数  であることが分かります。

次に,式  (2) p^2 について解いてみると

 \displaystyle p^2 = \frac{1}{3} \left( \frac{225}{q}-7q^2 \right)

となります。 p^2>0 なので, \displaystyle \frac{225}{q}-7q^2>0 であり,これと  q>0 より

 \displaystyle 0 < q < \sqrt[3]{ \frac{225}{7} }

が得られます。したがって, \displaystyle 3^3 < \frac{225}{7} < 4^3 より,  1 \le q \le 3  であることがわかりました。


四角で囲んだ2つの条件を両方満たすような整数  q q = 1,\,3 のみです。

 q = 1 のとき

 \displaystyle p^2 = \frac{1}{3} \left( \frac{225}{1}-7・1^2 \right) = \frac{218}{3}

となり,  p が整数であることに反します。

 q = 3 のとき

 \displaystyle p^2 = \frac{1}{3} \left( \frac{225}{3}-7・3^2 \right) = 4

となり  p = 2, \quad q = 3 が候補として得られます。


これを  (1) に代入すると

 (p^2+21q^2)p = (4+21・9)・2=386

となり,この解が正しいことが確かめられました。


以上より, \sqrt[3]{386+225\sqrt{7}}=2+3\sqrt{7} と二重根号を外すことができます。


 \sqrt[3]{-205379}=-59 より簡単でしょう?*3


なお,この手順で  p,\,q が見つからなければ整数係数では二重根号を外すことはできません。諦めましょう。(有理数係数ならうまく外せることがあります。例えば, p = m/2,\ q = n/2 という形でうまくいくケースもあります。例題 3 にて紹介。)


-- 別解 --
ちなみに, p,\ q を見つけるには次のような方法もあります。

 (1) を式  (2) で割ると,

 \displaystyle \frac{386}{225} = \frac{p^3 + 21 p q^2}{3 p^2 q + 7 q^3}

右辺の分母分子を  p^3 で割ると,

 \displaystyle \frac{386}{225} = \frac{1 + 21 \left(\frac{q}{p}\right)^2}{3 \cdot \frac{q}{p} + 7 \left(\frac{q}{p}\right)^3}

 \displaystyle \frac{q}{p} = x とおいて変形すると,

 386(3 x + 7 x^3) = 225(1 + 21 x^2)
 2702 x^3 - 4725 x^2 + 1158 x - 225 = 0
 (2 x - 3)(1351 x^2 - 336 x + 75) = 0

 x は実数なので, x = \dfrac{3}{2} が得られる。

よって  \displaystyle \frac{q}{p} = \frac{3}{2} となり, q について解くと  q = \dfrac{3}{2} p

これを式  (1) または式  (2) へ代入すると  p = 2 が得られる。

このとき, q = \dfrac{3}{2} p = 3 である。

よって, \alpha = 2 + 3 \sqrt{7}


うわぁ。場合分けすることなしに求められるものの,デカい係数の三次方程式の有理数解を求めることを要求されました。三次式だけに大惨事ってカンジ。



ついでにもう1問やってみましょう。

例題 2

例題:  \ \displaystyle \alpha = \sqrt[3]{100-51\sqrt{3}} の二重根号を外せ。


[解法 1]

\ \alpha=p-q\sqrt{3} p,\,q は0でない整数)と表せると仮定する。このとき,

  { \displaystyle
\begin{align} 
    \alpha^3=100-51\sqrt{3}&=(p-q\sqrt{3})^3 \\
    &=(p^2+9q^2)p-3(p^2+q^2)q\sqrt{3}
\end{align}
}

両辺を比較すると, (p^2+9q^2)p,\ -3(p^2+q^2)q は整数なので

100=(p^2+9q^2)p\tag{1}
17=(p^2+q^2)q\tag{2}

 p^2+9q^2,\hspace{1ex}p^2+q^2>0 より, p>0,\ q>0 である。

 (2) p^2 について解くと  \displaystyle p^2=\frac{17}{q}-q^2\tag{3}

 p^2>0 だから  \displaystyle \frac{17}{q}-q^2>0 ,すなわち  q^3<17\tag{4}

が成り立ち, (3),\ (4) より   q 17 の正の約数   1 \le q \le 2  が分かる。

よって  q=1 のときのみを考えればよい。

 q=1 (3) に代入すると  p=4 が得られ, (p,\ q)=(4,\ 1) (2) が成り立つ。

 (p,\ q)=(4,\ 1) (1) に代入すると  (16+9)・4=100 となり  (1) も成り立つ。

したがって, \alpha=4-\sqrt{3}


答:  \ \alpha=4-\sqrt{3}


[解法 2]

\ \alpha=p-q\sqrt{3} p,\,q は0でない整数)と表せると仮定する。このとき,

  { \displaystyle
\begin{align} 
    \alpha^3=100-51\sqrt{3}&=(p-q\sqrt{3})^3 \\
    &=(p^2+9q^2)p-3(p^2+q^2)q\sqrt{3}
\end{align}
}

両辺を比較すると, (p^2+9q^2)p,\ -3(p^2+q^2)q は整数なので

100=(p^2+9q^2)p\tag{1}
17=(p^2+q^2)q\tag{2}

 p^2+9q^2,\hspace{1ex}p^2+q^2>0 より, p>0,\ q>0 である。

 (2) において  17素数なので, p^2+q^2=17,\ q=1 または  p^2+q^2=1,\ q=17 が成り立たなければならないが,明らかに後者は不適。

前者を解くと  p=4,\ q=1 となり,このとき  (2) が成り立つ。

これを  (1) に代入すると  (p^2+9q^2)p=25 \cdot 4=100 となり, (1) も成り立つ。

したがって, \alpha=4-\sqrt{3}


答:  \ \alpha=4-\sqrt{3}


この問題で  \ \displaystyle \beta = \sqrt[3]{100+51\sqrt{3}} とおく手法を使うと  \sqrt[3]{2197} x^3-39x-200=0 を計算することになります。これはまだ手計算の許容範囲でしょうか。


この記事では式(2)から  p が整数になる  q を探しましたが,逆に式(1)から  q が整数になる  p を探すことももちろん可能です。


最後に, p = \dfrac{m}{2},\ q = \dfrac{n}{2} の形で三乗根を外せる場合について紹介します。

例題 3

例題:  \ \displaystyle \alpha = \sqrt[3]{-17+18\sqrt{5}} の二重根号を外せ。


\ \alpha=-p+q\sqrt{3} p,\,q は0でない有理数)と表せると仮定する。このとき,

  { \displaystyle
\begin{align} 
    \alpha^3 = -17 + 18 \sqrt{5}
        &= (-p + q \sqrt{5})^3 \\
        &= -(p^2 + 15 q^2) p + (3 p^2 + 5 q^2) q \sqrt{5}
\end{align}
}

 -(p^2 + 15 q^2) p,\ (3 p^2 + 5 q^2) q有理数 \sqrt{5}無理数なので,

 17 = (p^2 + 15 q^2) p \tag{1}
 18 = (3 p^2 + 5 q^2) q \tag{2}

 p^2 + 15 q^2 > 0,\ 3 p^2 + 5 q^2>0 より, p>0,\ q>0 である。

 (2) p^2 について解くと  \displaystyle p^2 = \frac{1}{3} \left( \frac{18}{q} - 5 q^2 \right) \tag{3}

 p^2>0 だから  \displaystyle \frac{18}{q} - 5 q^2 > 0 ,すなわち  \displaystyle q^3 < \frac{18}{5} \tag{4}

が成り立つ。


ここで,もし  q が整数であるとすると, (4) より  q = 1 でなければならない。

しかし, q = 1 のとき, (3) に代入すると  p^2 = \dfrac{13}{3} となり,これを満たす有理数  p は存在しない。

したがって, q は整数ではない。


そこで, q = \dfrac{n}{2} n自然数かつ奇数)の形で考える。

 (4) より, n^3 < \dfrac{144}{5} = 28.8 が得られる。

これより,  n = 1 または  3  である。

 (3) より, \displaystyle p^2 = \frac{1}{3} \left( \frac{36}{n} - \frac{5}{4} n^2 \right) \tag{5}

 n = 1 のとき, (5) より, p^2 = \dfrac{139}{12} で,これを満たす有理数  p はない。

 n = 3 のとき, (5) より, p^2 = \dfrac{1}{4} で, p有理数だから  p = \dfrac{1}{2}
このとき  q = \dfrac{3}{2} である。


したがって, \displaystyle (p,\ q) = \left( \frac{1}{2},\ \frac{3}{2} \right) (2) が成り立つ。(式  (5) は式  (2) を変形させて得られたものだから。)

また, \displaystyle (p,\ q) = \left( \frac{1}{2},\ \frac{3}{2} \right) (1) の右辺に代入してみると

 \displaystyle \left( \frac{1}{4} + 15 \cdot \frac{9}{4} \right) \cdot \frac{1}{2} = 17

となり, (1) も成り立つことが確かめられる。

以上より, \displaystyle \alpha = \frac{-1 + 3 \sqrt{5}}{2} である。


答:  \ \displaystyle \alpha = \frac{-1 + 3 \sqrt{5}}{2}


断言はできませんが,分母が3になったり4になったりすることは恐らくないのではないかと私は予想しています。私は見たことがありません。

分母 2 をつけることで三乗根を外せる例は,他にも

 \displaystyle \sqrt[3]{-2 + \sqrt{5}} = \frac{-1 + \sqrt{5}}{2}

 \displaystyle \sqrt[3]{5 + 2 \sqrt{13}} = \frac{1 + \sqrt{13}}{2}

 \displaystyle \sqrt[3]{27 + 6 \sqrt{21}} = \frac{3 + \sqrt{21}}{2}

 \displaystyle \sqrt[3]{505 + 126 \sqrt{29}} = \frac{5 + 3 \sqrt{29}}{2}

などがあります。よく見ると  \sqrt{ } の中身が  8 n - 3 n自然数)型の自然数ばかりです。不思議!



ちなみに同様の考え方で  \alpha=\sqrt[3]{a\sqrt{b}+c\sqrt{d}} という形の二重根号も  \alpha=p\sqrt{b}+q\sqrt{d} とおくことで求められます。試してみてはいかがでしょう。


<2018/06/19> 不正確な記述を一部修正しました。
<2021/02/03> 例題 3 を追記しました。


*1:ここでいう"簡単に"とは,なるべく大きい数字を扱わずにという程度の意味で使っています。

*2:参考文献: http://www004.upp.so-net.ne.jp/s_honma/rootjpg/doublerootsign.htm

*3:個人差があります。